父ちゃ~ん! ニャニャニャ~ン♪
・・・来たね、がや達。
ニャニしてるの~?
明日の手術の準備。
また、シュジュチュ? 好っきだねぇ~!
仕事だ、シゴト。
ほねのシュジュチュ?
く、くわしいな。
だっていっつもやってるニャン。
うちは整形の患者さんが多いからな。
多いって、どんくらい?
手術だと… 9割くらいかなぁ。
ニャンでそんなに多いの?
何でかねぇ、 自然とそうなったねぇ。
ずっと前から?
ずっと前から。でも特に多くなったのは10年くらい前からかな。
みなさん来てくださ~いってアピったの?
まさか!
だよね~!
父ちゃんも母ちゃんもそういうの苦手なんだ。
知ってる。だからホームページも今までなかったんだよねっ!
ムム、事情通だな。
ごぼうが言ってた。父ちゃんはシャイだし、めんどくさがりだって。
あいつめ・・・
でも、じゃあ、どうしてセーケーのカンジャさん多いの?
よその病院の先生が紹介してくれるんだよ。
ニャンで?
整形ってけっこう特殊なところがあるからかなぁ。
専門的な勉強もいっぱいしてきたつもりだし、
そんなところを認めてくれてるのかなぁと思ってる。
かれこれ30年もやってるしね。
ほねの勉強、好きなの?
うん。
若い頃、有名な整形外科の先生のもとで
修業したおかげで好きになったし、経験も積めた。
何より手術に対する考え方を教えてもらえた影響が大きいかな。
ほねのシュジュチュって、ほかのシュジュチュとちがうの?
骨、骨って言うけど、関節の手術もあるんだよ。
へ~、そうニャンだ。
シュジュチュしなくちゃいけないセーケーの病気って、いっぱいあんの?
あるねぇ。
もちろん手術しなくても治るものや、
メスを入れないで治した方がいい場合もあるけどね。
でも、整形の場合は手術以外に方法がない場合も多いんだ。
どうしてセーケーの病気になっちゃうの?
それは一概には言えないさ。
先天的なものとか、年齢的な劣化とか、
免疫的なものとか、肥満とか、環境とか色々あるし。
転んだとか落っこちたとか、アクシデントがきっかけになることもあるからね。
ボクらも時々ケンカしたり、落っこちたりしてるけど、まだセーフってこと…?
まあね、でもわかんないぞ~、猫も骨折するからね。
ひと昔前まで猫の骨折と言えば交通事故だったけど、
今はほとんどが家の中で起きてる。
おまえ達もいろんなとこに飛び乗ったり飛び降りたりしてるけど、
注意しないとね。
ただ、犬と猫で比較すると、整形で診る9割は犬だけどね。
そっか! だから父ちゃん、しょっちゅう犬さんの手術してるんだ。
そういうこと。犬は関節の病気になることが多いからね。
中でも多いのが膝(ひざ)かな。
ヒザ?
うん、膝はそもそも他の関節と全然違う。
関節ってのは、股関節にしても、肩関節や肘(ひじ)関節にしても、
基本的には骨同士の片方が凹形でもう片方が凸形で、
それがはまり合って安定しているんだけど、
膝の場合はそういう凹凸関係はあまりなくて、
靱帯(じんたい)に支えてもらっている部分が大きいんだ。
じゃあ、ジンタイさんがダメになったら…アウトってこと?
その通り! 例えば靱帯が切れてしまうとするだろ?
そしたら支えを失ってグラグラするからちゃんと歩けなくなるし、
骨と骨の間にある半月板(はんげつばん)っていうクッションが
何と! 骨にすり潰されてしまうこともあるんだぞ~!
ニャ~! やめてニャ~!
こわいかい? ハハハ!
そんなふうになっちゃうなんて! ヒザってどうかしてるよ!
うん、膝ってのはほんと不思議な関節でね。
複雑で、デリケートで、ユニークで、それでいて機能的。
まだまだ謎に包まれている部分が多いんだ。
ナゾ? 父ちゃんはいっぱい勉強したんでしょ? ナゾなんて、まだあんの?
あるさ!! 膝ほど謎に満ちた不思議なパーツはないと思ってるよ。
正常な動物の膝が実際はどうやって動いているのか?
そんな基本的な部分でも、まだまだ不明な部分が残されているんだ。
膝といっても、ヒトの膝と動物の膝は違うし、
動物の膝でも犬と猫ではまた違う。
人間の医学でわかっていることをそのまま動物に
応用できない難しさもあるしね。
そうニャンだ…
これは整形外科の手術全般に言えることなんだけど、
手術というのは壊れた部分を修復して機能回復させることで、
膝の手術は特にそうなんだ。
そのためには正常な膝がどのように動いているかを
正確に理解していなければできないんだよ。
セーカクニリカイ・・・父ちゃんは、いつしたの?
おまえ達が食っちゃ寝~食っちゃ寝~してる間に、
大学の医学部に通ってたの知ってるだろ?
あ、そーいえば… 先生なのに学生さんになりたいのかニャ!?って思ってた。
膝のことをもっと正確に理解したくて、父ちゃんは大学に通った。
正確に理解、と言ってもあくまでもその時点で解明されている範囲内での
正確な理解ってことになるけどね。
大学でバイオメカニクスや機能解剖を学んだおかげで、
それまで2次元だった知識が3次元になった。
視野も広がった。膝に詳しくなれたおかげで、
膝以外の関節を診る時も今までとはちょっと違う視点で
見られるようにもなったんだ。
父ちゃん、めんどくさがりなのに、やる時はやるニャン!
そりゃそうさ。研究すると見えてくるし、
見えてくると面白くなるからまた研究する。
その繰り返しで、それまで謎に包まれていた機能や構造が
少しずつ解明されていく。
そこからより良い手術方法のヒントを得て、
日々の診療や手術に活かしていく…。
父ちゃんみたいに好きなことを専門にしてる者にとって、
これ以上の喜びはない!
父ちゃんのケンキューっていつまで続くの?
研究かい?エンドレスだよ。
医学というのは発展途上の学問だから、
知識も常識もどんどんアップデートされていくし、
そうでなければいけないんだ。
だから父ちゃんも、まったく同じ手術は二つとないと思ってやってる。
もっとこうしたい、もっとこうできないかって
いつも自分に挑戦しながらやってるんだ。
・・・父ちゃん、マニアックって言われない?
・・・言われる。
父ちゃんにとってのヒザって〝ライフワーク〟ってやつ?
・・・核心を突いてきたな。
研究もいいけど、飼い主さんに説明する時は、わかりやすい言葉でね。
ふん、心配するな。わかりやすく説明するのは自信があるんだ。
そういえば母ちゃんもそこだけはほめてた気がする・・・
そこだけ・・・
ニャンか安心したよ。父ちゃん、 明日の手術、がんばってニャン!
ほいよ。